脊髄損傷は、交通事故や転倒などの外傷だけでなく、加齢や病気による影響でも引き起こされる深刻な障害です。後遺症が残りやすく、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。
近年、この脊髄損傷に対して「水素吸入療法」が注目を集めています。
本記事では、脊髄損傷の基礎知識をお伝えし、これに対して水素吸入がどのような可能性を秘めているのかについて、研究報告をもとに考察していきます。
脊髄損傷は、交通事故や転倒などの外傷だけでなく、加齢や病気による影響でも引き起こされる深刻な障害です。後遺症が残りやすく、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。
近年、この脊髄損傷に対して「水素吸入療法」が注目を集めています。
本記事では、脊髄損傷の基礎知識をお伝えし、これに対して水素吸入がどのような可能性を秘めているのかについて、研究報告をもとに考察していきます。

脊髄とは、脊髄とは脳から背骨(=脊椎:せきつい)の中を通って伸びている太い神経で、脳からの指令を全身に伝える大事な役割を持っています。
脊髄損傷とは、そんな脊髄が何らかの原因で損傷されてしまうことを指します。
脊髄が損傷されると、重大な後遺症が残ることが多く、損傷の程度によっては車椅子生活を余儀なくされてしまいます。
まずは、そんな脊髄損傷の基本情報について解説したいと思います。
脊髄損傷は、脊髄を覆う脊椎の脱臼や骨折によって脊髄が圧迫されることによって起こります。
交通事故や高所からの転落による外傷で起こるイメージも強いかもしれませんが、必ずしも強い外傷だけで発生するものではありません。
加齢に伴って背骨の空洞が狭くなる脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や、背骨の後ろ側にある靭帯が硬くなる後縦靭帯骨化症などを背景に持つ人に、転倒や打撲などの軽い刺激が加わって脊髄損傷が起こることもあります。
一口に脊髄損傷と言っても、損傷部位の位置によって症状は様々です。
脊髄には、上から順番に、頸髄(けいずい)、胸髄(きょうずい)、腰髄(ようずい)、仙髄(せんずい)と呼ばれる領域があります。
一般的に上の位置(頭に近い位置)で損傷を受ければ受けるほど、症状が重篤になりやすいと言われています。
頚髄損傷は最も重篤で、首から下の手足の麻痺(四肢麻痺:ししまひ)や感覚障害が生じ、手足の動作や歩行が不自由になることも少なくありません。
また、呼吸を一部支配する神経にも支障をきたすため、呼吸筋麻痺で呼吸困難となり、場合によっては人工呼吸器が必要となることもあります。
胸髄損傷は、損傷部位以下(胸から下)の感覚障害や下半身の麻痺がみられます。
腰髄損傷でも下半身麻痺や感覚障害が生じることがありますが、頚髄損傷や胸髄損傷と比べると、比較的症状は軽度です。
仙髄損傷では、排尿障害などが生じる可能性があります。
注意すべきは下位の脊髄損傷で発生することは、上位の脊髄損傷でも起こるという構造になっているということです。
他に自律神経障害(便秘、発汗障害、起立性低血圧など)が起こることもあります。
脊髄損傷が発生したら直ちに入院での管理が必要なのですが、患部を安静にすることと、機能回復のためのリハビリを同時に進めるという難しい管理が求められます。
骨折など明らかな損傷要因が残る場合には、手術で骨折部位を固定し脊髄への圧迫を取り除く治療が行われることがあります。
またステロイドと呼ばれる炎症を抑える薬を点滴で大量投与し、損傷の範囲を最小限にする治療が試みられることもあります。
ただいずれも治療効果は不明瞭で、副作用もあるので、実際にどこまでの治療が行われるかは担当医の判断によるところも大きいです。
そしてこれ以上病状が悪化しないという、病状の安定期に入るに従って、残った症状に応じてリハビリテーションの頻度や強度を強めて、後遺症の最小化と残存機能の有効活用を図ることが、標準的な治療方針です。

重い後遺症が残ることも多い脊髄損傷に対して、水素吸入療法が有効な可能性があり、注目を集めています。具体的にどういった研究報告があるのか見ていきましょう。
脊髄損傷に対して水素吸入療法の効果は、動物実験レベルでは複数の研究結果が報告されています1)。
ただし、実験動物における脊髄損傷は純粋な外傷によるものではありません。実験では、一時的に脊髄への血管(腹部大動脈)を遮断して、脊髄の損傷を起こす「虚血再灌流」という手法によって脊髄の損傷を引き起こしています。この違いにも注意が必要です。
マウスを用いた研究では、脊髄の神経細胞死に関わる細胞外グルタミン酸の増加を、3%の水素ガス吸入によって有意に抑制したという結果が報告されています2)
また、2%および4%の水素吸入によって炎症物質の低下、抗酸化物質の増加、神経細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)の抑制効果も示されています3)
これらの研究結果は、水素吸入療法の脊髄梗塞に対する治療効果を示唆する一定の成果と言えるでしょう。
一方で1.2%の水素吸入と水素溶液の注射での投与では、同様の実験マウスの神経保護効果が確認されなかったとする報告もありました4)。
脊髄損傷に対する水素吸入療法が効果をもたらすための条件を明らかにするには、さらなる研究による検証が必要と思われます。
未然に水素吸入療法を行うことで脊髄損傷を予防することができるかどうかについての研究は、現時点ではまだ行われていないようです(2024年9月現在)。
また、脊髄損傷は予測できるものではなく突発的に起こる場合が多いため、効果検証のための実験の実施も難しいかと思います。
ただ先ほどお伝えした、軽度の刺激で脊髄損傷を起こす要因(脊柱管狭窄や後縦靭帯骨化症など)に対しての効果が今後立証されれば、一種の予防効果となりえるかもしれません。
また、水素に脊髄を保護する効果があると解明されるようなことがあれば予防に期待が持てるかもしれませんが、現状ではそういった研究報告もなく、脊髄損傷の予防可能性は不明です。
脊髄損傷においては、いつ水素吸入療法が行われるかのみならず、どの場所が、どの程度まで損傷されているのかによっても、治療効果は大きく変わってきそうです。
いずれにしても今後の研究の発展を待ちたいと思います。
脊髄損傷は患者の人生を変えうる重大な病気であり、現在の医学では残念ながら後遺症が残ってしまうことも多々あり、患者にとってより有効な治療法の確立が求められていることは言うまでもないでしょう。
現状ではまだ十分とは言えませんが、水素吸入療法の潜在可能性が、今後様々な研究によって確認されていく可能性はあると思います。
水素吸入療法が脊髄損傷に対する有効な治療の選択肢の一つとして発展していくことを願っています。
水素吸入に関する研究論文・疾患別考察・基礎知識をまとめる編集チーム。特定メーカーに属さない中立的な立場で、医師監修・ファクトチェック体制のもと、エビデンスに基づく情報を発信しています。
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